オーダーメイド時計ベルト
- AZZWELL
- 2022年6月4日
- 読了時間: 3分
更新日:6月8日
オーダーメイド時計ベルトを製作させていただきました。
お客様のご要望は「茶系で、上品な印象に仕上げてほしい」というものでした。
上品さと一口に言っても、革の質感や厚み、構造の違いによって印象は大きく変わります。
そこで今回は、仕上がりのイメージを具体的につかんでいただけるよう、
2パターンの雛形を事前にご提案しました。
ご提案したのは以下の2タイプ:
一枚革のシンプルな構造
革芯を入れて貼り合わせた、スタンダードな構造
結果として選ばれたのは、一枚革のシンプルタイプ。
使用した素材は、イタリア・ワルピエ社の「ブッテーロ」——
しっとりとした艶とコシがあり、経年変化も豊かな革です。
色は落ち着いたチョコ。
主張しすぎず、クラシックな時計本体にとてもよく馴染みます。

一見些細に思えるかもしれませんが、ベルトの厚みは時計全体の印象に直結します。
最初は2.0mmで雛形を製作しましたが、最終的には2.3mmで本製作。さらに、裏面を滑らかにするための裏処理を施すことで、最終的な厚みは実質2.2mmほどに。
このわずかな調整によって、時計本体との厚みのバランスが取れ、上品さの中にも存在感がある仕上がりになりました。


ベルトを通す「サルカン(遊環)」も重要なパーツです。当初は0.8mmの革で試作しましたが、仕上がりがやや軽すぎてアンティーク調の時計ケースとちぐはぐな印象に。そこで1.0mmの革で再製作し、ネン(装飾と強度を兼ねた線)を入れることで、シンプルながらも締まった印象に仕上げました。
革は使ううちに多少伸びるため、ほんの少しだけキツめに設定。この「ややキツめ」が、長く使ううちにちょうどよくなるポイントです。

ベルト本体も同様に、革の端を丸く処理しネンを入れて仕上げました。
時計本体との接続はとても悩みましたが、アンティーク調の時計の雰囲気を壊さないよう、目立たないシンプルなステッチを選びました。
使用した糸はフランス・フィル・オ・シノワの麻糸。
化繊糸に比べ強度は落ちますが、麻糸特有のマットな表情と上品な風合いは今回の時計ベルトにはぴったりでした。

サイズホールも、いくつか試作を繰り返しました。
使い始めは少しキツめでも、革が馴染んでくる経年変化を見越して小さめに設定。
そうすることで、使い込むほどにちょうどよくなりブッテーロ特有の張りとツヤが手元で育っていきます。
完成したベルトを実際に時計本体に装着してみたところ、期待以上にしっくり。
素材、厚み、接続方法、細部の処理...どの要素も無理なく調和し、時計を引き立てる名脇役のような一本になったと思います。
既製品では得られない、使い手の要望に応じた一点ものの時計ベルト。
ご依頼いただき、ありがとうございました。



